中小企業におけるハラスメント解決は、大企業とは異なる特有の課題があります。限られた人員の中で発生するハラスメント問題を根本から解決するには、従来の対策を超えた新しいアプローチが必要です。本記事では、中小企業のハラスメント解決に効果的な認知の偏り修正による方法について詳しく解説します。
中小企業が直面するハラスメント問題の深刻さ
ハラスメントは、企業にとって生産性の低下や従業員の離職率上昇を引き起こす深刻な問題です。厚生労働省の調査では、2023年の労働相談件数のうち約3割が「いじめ・嫌がらせ」に関するもので、年々増加傾向にあります。
特に従業員数が限られる中小企業では、一人ひとりの役割が大きく、ハラスメント問題が放置されると経営に直接的な影響を与えます。大企業であれば配置転換で問題を回避できることもありますが、中小企業では同じチームで働き続けなければならないケースがほとんどです。
中小企業特有のハラスメント解決における課題
中小企業では以下のような特有の課題があります:
- 人事部門の専門性不足:専門的なハラスメント対応の知識や経験が限られている
- 配置転換の困難性:部署数や人員が限られているため、物理的な分離が難しい
- 密接な人間関係:社員同士の関係が密接で、問題が表面化しにくい
- 経営への直接影響:一人の離職が業務全体に大きな影響を与える可能性
これらの課題により、中小企業におけるハラスメント解決は、より根本的で持続的なアプローチが求められるのです。
従来のハラスメント解決策の限界と「正しさ」の罠
多くの企業がハラスメント対策として研修の実施や相談窓口の設置を行っています。さらに、問題が発生した際には、十分な聞き取り調査を行い、加害者と被害者を明確に区別し、ハラスメントの認定を行うという手順を踏みます。
しかし、この「正しい手順」にこそ、根本的な問題解決を阻害する要因が潜んでいます。
「加害者・被害者」の二分思考が生む新たな対立
聞き取り調査によって「加害者」「被害者」というラベルを貼ることで、当事者間の関係はより硬直化してしまいます。被害者とされた側は「自分は正しい」という立場を強固にし、加害者とされた側は「自分だけが悪者にされた」という不公平感を抱くようになります。
「ハラスメント認定」へのフォーカスが本質を見えなくする
「これはハラスメントに該当するのか」「法的にどう判断されるのか」という視点に集中することで、「なぜこのような関係性になったのか」「どうすれば建設的な関係を築けるのか」という本質的な問題から目が逸れてしまいます。
この問題は、日本産業カウンセラー協会の研究でも指摘されており、表面的な対応だけでは問題の根本解決に至らないことが明らかになっています。
「正しさ」を武器にした責め合いの構造
最も深刻なのは、被害者側が「正しさ」を武器に加害者側を責めるようになることです。これは、元々の問題と全く同じ構造を生み出します。つまり、「正しい立場」から「間違った立場」の相手を攻撃するという、同じパターンの対立が形を変えて継続されるのです。
このような状況では、加害者とされた側も防御的になり、「自分の正当性」を主張するようになります。結果として、お互いが「自分が正しい」という立場から相手を責め合う泥沼の関係性に陥ってしまうのです。
当事者が持つ認知の偏りとその影響

中小企業のハラスメント解決において、従来のアプローチが功を奏しないのは、当事者が持つ認知の偏りが見過ごされているからです。
被害を受ける側の認知パターン
被害を受ける側は以下のような認知の偏りを持ちがちです:
- 「相談することで状況が悪化するのではないか」
- 「自分が我慢すればいいのではないか」
- 「自分にも問題があるから仕方ない」
しかし、問題が表面化し「被害者」という立場になると、今度は以下のような極端な認知に振れることがあります:
- 「相手が100%悪い」
- 「自分は完全に正しい」
- 「相手は変わらない」
行為者側の認知パターン
一方、行為者側も以下のような正当化の思考パターンを持っています:
- 「相手のためを思って指導している」
- 「これくらいは当然だ」
- 「相手が過敏すぎる」
問題が表面化すると、以下のような被害者意識への転換が起こります:
- 「自分だけが悪者にされている」
- 「相手にも問題があるのに不公平だ」
- 「会社は自分を理解してくれない」
職場全体の認知パターン
職場全体も以下のような認知の偏りを持つことが多く見受けられます:
- 「どちらが正しいのか判断したい」
- 「誰が悪いのか明確にしたい」
- 「関わりたくない」
これらの白黒思考により、建設的な問題解決から遠ざかってしまうのです。
真の解決策:認知の偏りを修正することで関係性を改善
ハラスメント問題を根本的に解決するには、「正しい・間違い」という二元論から脱却し、当事者の認知の偏りそのものを修正することが最も効果的です。
重要なのは、「加害者・被害者」というラベリングではなく、「どちらも人間関係における困難を抱えている」という視点で捉えることです。興味深いことに、被害を受ける側の認知パターンを修正するだけでも、関係性全体に大きな変化をもたらすことができます。
認知の偏りが修正されると、これまで「我慢するしかない」と思っていた状況でも、適切なタイミングで自分の意見を伝えられるようになります。また、「相手が100%悪い」という極端な思考から解放されることで、冷静で建設的なコミュニケーションが可能になります。
重要なのは、一方の認知パターンが変わることで、相互作用として相手の行動も自然に変化するということです。これは、人間関係が相互依存的な性質を持っているためで、一人の行動パターンが変われば、相手も無意識のうちに新しい関係性に適応していくのです。
具体的なアプローチ方法
「正しさ」からの脱却トレーニング
「相手が悪い」「自分は正しい」という思考パターンから、「どうすれば建設的な関係を築けるか」という解決志向の思考への転換を行います。
認知パターンの詳細分析
当事者がどのような場面で、どのような思考パターンを持ちやすいかを具体的に分析します。「正しさ」に固執してしまう場面や、相手を責めたくなる瞬間の認知パターンを特定します。
段階的な認知修正トレーニング
「相手の行動には様々な背景がある」「問題解決と責任追及は別のもの」「建設的な関係性の構築が最優先」といった、より現実的で健全な認知パターンを身につけていきます。
実践的なコミュニケーションスキルの習得
新しい認知パターンに基づいて、実際の職場で使える具体的なコミュニケーション方法を練習します。責め合いではなく、問題解決に向けた対話の技術を身につけます。
職場環境全体への働きかけ
個人の認知修正と並行して、職場全体が「白黒思考」から「建設的思考」へ転換するための取り組みも行います。
認知修正による効果

認知の偏りを修正することで、以下のような変化が期待できます。
当事者の変化
責め合いからの解放、建設的な問題解決能力の向上、ストレス耐性の向上
関係性の変化
対立から協力への転換、相互理解の深化、建設的な対話の実現
職場環境の変化
白黒思考からの脱却、心理的安全性の向上、チーム全体のパフォーマンス向上
企業への効果
根本的な問題解決による再発防止、生産性の向上、健全な企業文化の構築
成功事例:認知ケアによる関係性改善
当協会ではハラスメント事例に関して、リカバリーセラピーを用いて認知の偏りを修正していきます。
会社員の30代女性Aさんの事例では、直属の上司からパワーハラスメントを受けていました。合計3回のカウンセリングでしたが、上司に対する恐怖心がなくなったため、はっきりと意見を伝えることができるようになり、報連相が可能となりました。上司も優しくなったとおっしゃっていましたが、Aさんが上司の反応をネガティブに捉えなくなったため、対話ができるようになったという状態です。さらには職場全体の雰囲気も良くなったと感じ、仕事へのモチベーションもup。仕事が楽しいと言えるまでに。
当初、Aさんは「上司が100%悪い」「私は完全に被害者」という極端な認知に陥り、心の中では上司を責め続けていました。しかし、3回のカウンセリングを通して、自分のこういった性格や特徴が悪循環になっていたこと、この上司だけではなく、他のところでも同じような状況になってしまうことから、自分の認知という、内側に目を向けることができ、気付きが増えました。
モラルハラスメントでの関係性再構築事例が多い
リカバリーセラピーを受けるケースでは、モラハラに悩む女性からの相談が多いです。離婚前、別居中、調停中、離婚後、あらゆる状況ではありますが、「話ができなくて調停を立てたのに、話し合いができる異様になりました」「あんなに怖かったのに、仲良くなりました」と、二人で外食に行けるくらいまで関係性が改善したケースが多々あります。
結婚・離婚という状況にとらわれず、父と母として関係性を再構築出来ていると、経済面や子どもへの影響も変わってきます。
会社という組織の中でも、基本は同じです。当事者だけの問題ではなく、他の社員への影響があるため、根本的な部分からのケアをオススメします。
まとめ
中小企業のハラスメント問題は、従来の「加害者・被害者」という二分思考や「正しさ」の追求では根本的な解決に至りません。むしろ、このアプローチは新たな対立構造を生み出し、問題を複雑化させてしまいます。
真の解決には、当事者の認知の偏りを修正し、「責め合い」から「建設的な問題解決」への思考転換が不可欠です。特に注目すべきは、一方の認知パターンが変わるだけでも、関係性全体が改善するという相互作用の効果です。
認知の偏りの修正は、問題の解決だけでなく、より健全で生産的な職場環境の構築にもつながります。一人ひとりが「正しさ」への固執から解放され、建設的な関係性構築に意識を向けることで、チーム全体のパフォーマンスも向上するのです。
このような根本的なアプローチをお考えの企業様には、認知行動療法やスキーマ療法をベースにしたリカバリーセラピーもおすすめです。社内のパワーハラスメント問題や家庭内のモラルハラスメント問題の解決実績も豊富で、平均6〜9回のカウンセリングで関係性の再構築が可能です。カウンセリングは当事者の一方のみでも、相互作用により両者に変化をもたらすことができます。
ハラスメント問題でお悩みの場合は、まず「正しさ」の追求から脱却し、認知の偏りの修正という視点から解決策を検討してみてはいかがでしょうか。
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